認知症110番

衣類を繰り返し整理する母

 79歳の母と82歳の父、それに長女の私の家族(夫、子供2人)の6人暮らしです。母は数年前から認知症で言動の不一致が目立ち、生活そのものは声かけなどで対応していました。週3回デイサービスに行っています。数カ月前から、家にいるときは自分の部屋の押し入れやタンスから衣類を出し、たたんだり、並べたり、積み上げたり、入れたり出したりを繰り返しています。洗濯干場にある衣類を取り込み、同様な行動をとったり、家族が置いたままの衣類も同様で、着ようとするとなかったりします。父はイライラ、家族はストレスでいっぱいです。(滋賀、娘、52歳)

【回答】「助かるわ」ねぎらいの言葉を

 ご家族の皆さんがお母様を理解し優しく接しているのが伝わってきますが、そろそろ家族の受容も限界に近付いているようにも思えます。家は安らぎやホッとする役割が大きいと思います。その家の役割が、お母さまの認知症に伴う言動で、ストレスや落ち着けない場になりつつあることを現実として考えてみましょう。家族はお母様の認知症を認め、家族の一員として、それまでのやさしい人柄のままを受け入れ継続し、一方では理解できない行動を頭で理解し、暮らしを共にすることで、そのギャップが大きくなり、精神的疲労を感じるようになったのでしょうね。

 お母様が、衣類を繰り返し出し入れするのは、こだわりや執着で過去の生活経験が影響すると言われています。おしゃれで洋服などの組み合わせに関心を持っていたこと、洗濯した衣類をきちんと整理して家族の衣生活に気を使っていたこと、洋服等の裁縫が得意、逆に洋服に関心があったが思うようにできなかった等衣類に関することで、なにか思い当たることはありませんか。思い当たることをきっかけにかかわると、安心につながる手がかりとなる場合もあります。

 洗濯物や何気なく置いた衣類をしまわれてしまうと探すのも一苦労ですね。物干し場や部屋に小物入れを置いて、見えるところに"衣類はこの中に入れましょう"と書いたものを張っておくのもよいと思います。入れて下さったときは、「ありがとう」「助かるわ」などねぎらいの言葉をかけましょう。案外、文字で書いておくとわかりやすいことがありますので試みてみましょう。

 お母様は、大切な衣類が見えること、自分の近くに置いてあることで安心なのではないでしょうか。自分の部屋で好きなことをしているのだと解釈するのはいかがでしょうか。自分の部屋なのですから、好きなことをしてもよいですよね。自分の部屋で読書の代わりに衣類の出し入れをしているとは思えませんか。発想の転換をするのは難しいことと思いますが、いつまでも続く行為ではなく、何かのきっかけで変わると思いますので、一定の期間だけだと思うと少しは気もちにゆとりが持てると思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学