認知症110番

母には重荷の自立目標

 母(83歳)は長女の家族(夫、子ども)と同居しています。3年前から物忘れが目立つようになりました。身体は元気ですが、最近は声をかけられないと、何をしてよいかわからないようで、ボーとしていることが多くなっています。ケアマネジャーやデイサービスの職員、ヘルパーさんたちから励まされながら、なんとか生活していますが、その励ましに応えられないことが多くなっている現状です。「自立」という目標から遠くなっていること、自立とか介護予防と言う言葉を聞くたびに、職員の方々に申し訳ないと気になっています。(群馬県、長女、58歳)

【回答】安心して暮らせていれば十分

 お母様は在宅サービスを利用しながら生活しているのですね。そのサービスは介護保険制度の介護サービスだと思います。介護保険制度のサービスの提供は、できる限り要介護・要支援にならない、あるいは重度化しないよう介護予防を重視したサービスになっているため、サービスの目標が自立や介護予防を目指すことを意識しています。契約で行うサービスですから、文書等にも自立や介護予防の文字が目立っています。具体的な援助も、その目標を達成するために行うものなので、自立や介護予防という言葉が頻繁に聞かれ、お母様や家族は気になると思います。
生活は、個人個人が長年自分の考えで暮らしてきたもので、価値基準は個人の範疇にあるものですが、介護保険は、制度で自立や介護予防を目的にしています。自立や介護予防の考えは良いと思いますが、人々がそれぞれ自分らしい暮らしを続けてきた結果、自立や介護予防につながっているのであって、自立や介護予防の目的で日々暮らしているのではないと思います。生活のなかでは、自立や介護予防と言う言葉は違和感があるように思え、現状のままだとマイナスのイメージになる感じがするのではないでしょうか。
生活の仕方はそれぞれ違いがあり、他者が良い悪いというものでもありません。日々の暮らしは、他の支配や制約を受けずに自分で考えて行動しています。自分なりの規範で、自己決定しています。自律と言う言葉がふさわしいと思いますが、自立は他者の援助や支配を受けずに、自分の力で生活していく、独り立ちするという意味合いが強く感じます。そのあたりの微妙なニュアンスに違いがあるのではないでしょうか。
その人の暮らしを考えてみると、朝起きてから寝るまで、さまざまな暮らし方があります。身だしなみや清潔、身体状況、食べ物、住まいの環境、季節感の感じ方、経済面等など、どれをとっても違いありますし、その違いがその人らしさでもあります。お母様にかかわる職員の方々は自立への援助を意識していると思いますが、お母様の今の状態や状況を考えて、お母様らしく暮らしができていれば、自立した生活を保っていると考えて良いのではないでしょうか。頑張って耐えて何かができるようになるではなく、安心して暮らせることが生活全体から考えて自立した生活、介護予防、尊厳ある暮らしと考えましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
元・大妻女子大学教授=介護福祉学