認知症110番

孫と夫が同時に要求

 77歳の夫(15年前に糖尿病で左下肢膝上5センチから切断、日常生活は全介助が必要、認知症)と妻75歳、息子家族(息子44歳、嫁40歳、孫8歳と3歳)の6人暮らしです。同居して1年を迎えようとしています。息子夫婦は共働きで3歳の孫と夫の世話をしています。3歳の孫と夫が同時に要求し、どちらかに手を貸していると片方がぐずり、言ってもわからずつい大きな声を出してしまいます。いくら認知症があっても孫のことをしているときくらい、祖父としての意識を持ってほしいのですが。(秋田県、妻、75歳)

【回答】宝紡ぐ環境と見ては

 状況が目に浮かびます。第三者からみると三世代家族のほほえましい姿に見えますが、当事者のあなたにとってはそれどころではありませんよね。毎日繰り返され、うんざりしていることもよくわかります。そのことで、孫との関係が悪くならないか、孫がすくすく育つ環境として悪いのではないかと悩んでおられると思います。公平に、ある場面では妻、ある場面では祖母としてかかわっているのでしょうが、夫や孫は自分中心に思っているのですから、そう簡単に理解できるとは思えませんし、また、それが自然なことだと思います。

 今の状況を変えるわけにはいきませんから、少し考え方を変えてみませんか。簡単でないことは十分わかっていますが、試してみてはいかがでしょうか。現在の状況がいつまでも続くとは限りません、お孫さんは成長・発達していきます。感情面でも変化していきます。夫は認知症でわからないこともあると思いますが、すべてがわからないのではなく、自分の意思を上手に伝えることができなくて、孫の行動を見て自分もそうだったと感じるのだと思います。孫の行動で触発され、よい刺激になっていると思われます。ということは、他者の行動を見て思う感情が豊かであること、心が動いている証拠だと考えてはいかがでしょうか。刺激が少なくなってしまうことが多いのに、自然な形で心が動く材料があるということは、認知症の夫にとって良い環境であるのではないでしょうか。

 また、あなたが毎日繰り返される日常生活の介助、食事介助、排泄(はいせつ)介助、更衣、健康管理等々、継続することは並大抵ではありません。それを三世代の暮らしの中で行われていることは、息子や嫁、孫にとって何物にも代えがたい貴重な財産だと思います。言葉で伝え切れない大切な宝物なのですから、自信をもって、そのときそのとき、あなたの判断でかかわっていくことでよいと思います。誰にでもできることではありません。しかし、そうは言っても、お互い感情で生きているので冷静にできるものではないことも当然ですから、たまには時間を作って、あなた自身の心身の癒やしを創る機会を意図的に作りましょう。何よりもあなたの健康と精神の安定がキーポイントになります。毎日毎日宝を紡いでいると思い、継続できることに大きな意義があると考えてはいかがでしょうか。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学