認知症110番

階段も大丈夫という父

 80歳の父と2人(長女、会社員)暮らしです。母は15年前に他界。5年前から物忘れが目立ってきましたが自分でやろうとする気持ちは若いころから変わらず、最近、階段の手すりをつかまらず転びそうになることが多く心配しています。デイサービスを週4回利用、土・日は私がみています。2階が父の部屋でトイレやリビングは1階。以前部屋を1階にしたのですが混乱してしまい2階に戻しました。「気をつけているから大丈夫」と言いますが不安です。(山梨県、女性、49歳)

【回答】優しい声かける環境を

 階段から落ちて骨折するのではないかとハラハラする気持ち、よくわかります。お父様は娘に世話をかけないように、自分のことは自分でやろうとしているのでしょうから、手を貸しすぎると意欲がなくなって受け身になってしまう恐れもあります。お父様の自立心や意欲を損ねないで安全を守りたいと思うことは当然だと思います。しかし、加齢とともに身体機能の低下、認知機能も同様に低下していきます。お父様は物忘れもあるということですから、あなたが多方面から援助して日々の暮らしができているのです。

 加齢とともに手の巧緻性や把持力を低下し、階段の手すりをつかまることがわかっていても面倒になることがあります。お父様は物忘れがあり、自分ではできると思っているのですから、このくらい大丈夫と思っているのでしょう。危ないと意識してつかまる判断能力が低下し、危険に対する意識が低くなるのと、手すりをつかむ力が少なくなり、手すりをつかまらないで階段を昇り降りしてしまうのではないでしょうか。危険の意味を説明しても、すぐに忘れてしまうと思いますが、その都度、優しく穏やかに声をかけ見守りましょう。毎日繰り返される状況なので、あなたにとってはストレスにもなると思います、お父様の現状の自立心や身体機能の維持を考慮しましょう。危険な状態が起こりうることもあると思いますが、お父様にとっての暮らし方、生き方を大切にしましょう。

 あなたが家にいるとき、お父様が階段の上り下りをする気配が感じられた場合は、「手すりにつかまらないと落ちますよ」「だいじょうぶ」「見ているから、ゆっくり降りましょうね」などと、安心して行動できるように声をかけましょう。つい「落ちてからでは大変ですから……」と言いそうになってしまいがちですが、お父様をいらだたせる言葉、あなたが大変になると予測できる言葉は慎みましょう。わかっていても、毎日続けることはとても大変です、あなた自身も自分の気持ちを和らげるような、例えば歌を口ずさんだり、壁に好きな絵を飾ってながめたり、好きな花を飾ったりなどの工夫をして、やさしい言葉がかけられるような環境を創るのも一つの方法です。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学