認知症110番

母の介護に反省しきり

 93歳の母を二十数年介護しています。私(長女・72歳)と夫(75歳)の3人暮らしです。認知症が徐々に進行し困る時期もたくさんありましたが、今は日常化してきたためか、それほど大変とは思わなくなりました。逆に「これでよかったのか、もっと他の方法があったのではないか」と思ったり、やさしく世話ができない自分に反省しきりの日々です。夫は「なるようにしかならない」と言ってくれますが、母の気持ちはどうなのか気になります。(神奈川県、長女、72歳)

【回答】貴重な経験、自分責めずに

 長い間よく介護をされてきましたね。一日一日同じようなことの繰り返しですが、その日々の繰り返しは、かけがいのない大切な日々だったと思います。振り返ってみると反省することが多いと感じておられますが、大変だったこと、ホッとしたこと、放棄したいと思ったこと、笑顔になったこと、寝る時間もなく疲弊したこと、考え込んだことなどさまざまなことがあり過ぎるくらいあったと思います。今は少し安堵される日々で、振り返る余裕が出てこられたのでしょうね。

 二十数年もの間、生活を共にするだけでもいろいろなことがあるのに、認知症をかかえての生活、まだその頃は認知症の理解もされない時でしたから、あなたのご苦労は言葉では言いつくせないと思います。でも、今日まで過ごしてきた時間の積み重ねは誰にもできません。あなたの気持ちがどうあれ、お母様とご主人の3人の人生を歩んできたことは確かなもので消せるものではありません。まずは、そのことをお互いにねぎらい感謝だと思います。そして、人は誰もが良い事ばかりできるものではなく、消えてしまいたいこともあると思います。人生は期間限定の一度だけです、お母様が認知症だったからこそ経験できたこともたくさんあると思います。

 実は私も認知症の母と膝関節症で介護が必要な父を介護していました。他の人には適切に援助できても、両親にはなぜかできない自分にどれほど後悔したかわかりません。離れているときは優しい気持ちになれるのに、目の前にいると優しくできないばかりか、イライラした感情が前面に出てしまい、何度も自分自身を否定し切ない気持ちになりました。でも、その経験があるから、今があることも事実です。

 あなたが経験されたことはどれもが貴重な体験で、本などから得られるものではありません。どうぞ、自分を責めないで、その時の流れで経験を生かして手を抜くことをお勧めします。日々年を重ねていくのですから、あまり気を張らずに、できることを最小限でよいと思います。お母様の気持ちは、あなたが笑顔で介護できていることが最大の喜びだと思います、あなたの気持ちがお母様に反映するのですよ。ですから、あなたもあなたらしい人生が送れるようにマイペースで楽しい時間が過ごせるようにすることが最優先だと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学