認知症110番

この先の介護に胸痛み

 90歳の父と長女(62歳)の二人暮らしです。父は母が他界(20年前)してから認知症の症状が出始めました。数年前から認知症が進行し会話もできず毎日ブツブツ言いながら歩き回って、目を離すことができなくなりました。時には警察のお世話になることもあります。先日、肺炎で入院しましたが歩き回るので帰され、他にもショートステイで帰されたりしています。もう少しもう少しと思いながら介護してきましたが、この先を考えると胸が痛くなってきます。(東京都、長女、62歳)

【回答】悩んでこそ前向きになる

 長い間介護されてきたのですね。毎年、もう少しもう少しの期間だけ世話をすればと思い、それを繰り返し自分に言い聞かせ頑張ってこられたのでしょうね。お父様の状態はますます手がかかるようになります。一方、ご自分は体力がなくなっていくのを感じています。お父様のことを考えお世話していても、反比例するように認知症の症状が重くなって、介護の負担感が大きくなっていくのを実感していた矢先に、入院という事態になり思うように治療ができない現実に突き当たられたのでしょう。この先、入院やショートステイの利用ができなくなる事態が起こることを考えると、このまま在宅での介護が続けられるのか迷っておられるのでしょうね。今まで大変なことはたくさんあっても何とか乗り越えてこられましたが、病気になると治療が必要であり、それを受けることが難しい状況であることは、あなたにとっては想像以上に苦しい立場に立たされ今までにない切ない思いをされたことでしょう。複雑な気持ちはよくわかります。しかし、厳しいようですが、これからも同じような状況になる可能性は高くなってくると思います。

 長い間お父様を介護してきたことは、親子にとって共に良い時間を過ごされてきたことであり何物にも代えがたいものです。それはそれとして認めながら、今後のことを考えていくことも必要なのではないでしょうか。時間とともに変化していくことを受け止めて、お二人それぞれが、自分らしく生活できる方法を模索していくことが必要になってきたのだと思います。現状を見据え、このまま家で、いろいろなサービスを利用するとどのような暮らしになるか、どのような不都合さがあるか、施設などに入所するとどのような暮らしになるかなど具体的に考えてみましょう。

 あなたは、お父様の意思がわかりにくいために悩むと思いますが、お父様はあなたがお父様のために自分の生活を犠牲にしてまで世話してほしいと考えていないと思います。親としていつまでもあなたがあなたらしく生きていくことを望んでいると思います。判断するのはあなたです、悩むことは前向きになることの前提だと考えましょう。たとえば、生活の場が離れても、お父様のお世話がなくなることではなく、お世話の内容や形が変わるだけです。自分だけで抱え込まないようにしてくださいね。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学