認知症110番

父が「盗食」と特養職員

 80歳の父は2年前から認知症が進み特別養護老人ホームに入所しています。娘の私は月に2、3回面会に行きます。介護職員から「盗食が続いています」と言われ、面会の度に落ち込んで帰宅。あの厳格で寡黙な父がなぜ。認知症だからなのか、いくらなんでも人のものを盗むとは……。「盗食」の言葉を聞くたびに目の前が真っ暗になってしまいます。でも父のことを思うと重い足を引きずりながら面会に行っています。これから先、心が折れそうです。(千葉県、長女、52歳)

【回答】食べたい気持ちを大切に

 面会の度に、あなたの心が重くなり、帰りの道々はどんなに悔しくてたまらないお気持ちになることか、よくわかります。施設の介護職員は、あなたが忙しい中でも何度も面会に来られるので、良い親子関係であること、現状のお父様の状態を理解していることなどから、フランクな気持ちで気安く声をかけているのだと思います。あなたが職員の言葉で傷ついているとは思っていないように思われます。

 本来、施設では利用者への対応としていろいろなことを学び研修などしています。特に認知症の方への介護は、「尊厳を守ること」「その人らしい生活の支援」「自立の支援」などを基本に、どのように援助するか、言葉に対してもプライドを守ることやマナーを習得しています。当然、家族の方々へのコミュニケーションに対しても学んでいるのですが、それらが現実には生かされていないと思われます。

 気になる「盗食」ですが、見える範囲においしそうな食べ物があれば、だれでも食べたくなります。私たちのルールとしては、自分のものではないので、おいしそうに思うけれども食べることはしない。でも、自分の世界だったら、おいしそうに感じれば自然に手を伸ばして食べると思います。おいしそうに感じ、食べたいと思う気持ちは生きています。解釈の仕方をどちら側でするのかの違いです。食べるものを見て食べたいと思う気持ちもなくなってしまったらどうでしょうか。まだまだ、感じる気持ちがあることを、食べる楽しみがあることを大切にしましょう。

 そうはいっても、面会に行くことの重さについてですが、直接介護職員や施設の相談員に言えればよいですが、言いにくい場合は、施設には第三者委員やオンブズマン制度がありますし、あるいは家族会があれば相談するのもよいと思います。誰が言ったかなどの守秘義務は守られるようになっています。嫌な気持ちを我慢しないで口に出してください。あなただけではなく、同じような思いの方がおられると思いますので、自分のためだけではなく、多くの方々の代弁者になり、安心して暮らせる社会のための一助となるよう、小さな声を出してください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学