認知症110番

暗証番号を忘れ外出減る母

 76歳の母は父が2年前に他界し、独り暮らしをしていましたが、セキュリティも万全ということで1年前に近所にできた高層マンションに引っ越しました。荷物も以前の物は処分し、マンションにふさわしい調度品に変えました。新たな生活が始まり、友人が訪ねてくるなど当初は楽しんでいました。しかし、最近は部屋の暗証番号を忘れることが多く、友人を送りに出ては戻れなくなることが多くなりました。外出も減り、表情も硬く言葉も少なくなってきました。このままだと認知症になってしまうのではと不安になっています。(神奈川県、長女、51歳)

【回答】カードなどの番号 整理して

 お母様は、お父様が亡くなられた後、子どもの世話にならずに生活していくために、自分の将来をいろいろ考えられたのでしょう。住み慣れた地域にできたマンションはセキュリティが整備され、安心して暮らせると判断して住み替えをされたと思います。ところが、今まではドアを鍵で開閉していたのに、新しいマンションは暗証番号でドアを開ける仕組み。その番号を思い出せないことがあり、外出が減少して家の中だけの生活になっているのでしょうね。引っ越し前の生活環境が変化したことに違和感があるのでしょう。なじみのある生活用品などを処分され、新しい環境に溶け込めず、くつろげない状態になっていると思われます。そのうえ、暗証番号などで気を遣われ、動きや刺激が少なくなり、生活の活性度が低くなっているのでしょう。

 お母様は、最近高齢者関係でよく聞く言葉「フレイル」と考えられます。体がストレスに弱くなっている、生活機能がスムーズにいかず、心身が弱くなっている状態です。早く対処すれば元に戻れるのですが、このままだと介護が必要な状態になってしまう恐れもあります。以前のような状態に戻るには、買物や友人とのお付き合いで外出する機会を増やすことが大切です。

 最近はいろいろなことに暗証番号が必要で、覚えられないのは誰にでもあることだと思います。そうはいっても、皆さん工夫をされています。暗証番号が分かるよう、番号を書いたものを身につけたり、マンションの管理者に相談し柔軟な対応ができるようにするなど、お母様が気軽に部屋から出られる方法を検討しましょう。また、家にいても家事をしたり好きなことをしたりして体を動かし、心身の活性化を図れるようにしましょう。

 そして、この際ですので、暗証番号が必要ないろいろのカード、書類なども話し合いながら整理する機会にしましょう。カードなどにまつわる話を聞きながら、あなたが気になっていることを話すと、お母様も気持ちが穏やかになり、自然体で話ができると思います。これから健康で楽しみながら生活していけるように前向きな話題を、“一緒に考えながら行こうよ”という姿勢でいきましょう。お互いに同じ方向を共有しながら、時折立ち止まり、福祉情報や地域の催しにも目を向け、状況に合わせて過ごしていきましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学