認知症110番

物忘れに工夫 年寄り扱い嫌う父

 80歳の父は独り暮らしをしています。長女の私は近くに住み毎日顔を出しています。病気は高血圧症、膝関節症があり服薬しています。最近物忘れが多くなってきたと意識し、自分なりに工夫して生活しています。サービスを使うことを嫌っています。薬局で薬をひと袋にまとめてもらうのですが、その袋に名前と朝・昼・夕と書いてあることを嫌がっています。元々プライドが高く「まるでボケ扱いだ、このくらいできるのに大きなお世話だ、ボケにだけはならんぞ」といつも憤慨しています。(東京、娘、52歳)

【回答】プライドを大切に、褒めることも

 お父様の気持ちよくわかります。自分でいろいろ工夫して自立した生活をしているものの、時折忘れていることに気づき、老いていく自分を感じ、こんなはずではないのにと思うのでしょうね。頭ではわかっていても、その場面に遭遇すると認めざるを得ない状態に寂しさと、このままではいけない、何とかしようと複雑な気持ちになるのだと思います。娘のあなたは、薬の飲み忘れがあるよりもきちんと名前が書いてあって間違いなく服薬できるからいいのではないか、なにも憤慨するほどのことではないと客観的に見ているのではないでしょうか。

 お父様から見ると、日頃の生活全般を自分で気にしながら行っているのでしょうね。入院して他の方が一緒であれば薬袋に名前があっても違和感はないでしょうが、自分の家、それも一人ですから名前を書くことの意味はないと判断されているのだと思います。日々流れの中で過ごしていると気にならないことのように思えますが、しっかりと一つひとつ考えながら行動していると、また違ってきます。なぜそうなのかと意味を解釈し判断すると、忘れないようにしているのになぜ他人が世話を焼くのかと思え、自分できちんとやっている行為が認められていないことが許せないのでしょう。プライドが傷つくのでしょうね。あなたから見ると、そんな些細なことはどうでもいいのでは、それよりそんなことを気にすることの心の狭さが認知症へと向かうのではないかと気になるのでしょうね。

 お父様の気持ちをくんで、あなたが薬局に行き薬剤師の方に事情を話すとわかってくれ、気持ちよく対応してくれますよ。小さなことでも相談に乗ってくれます。薬局の
方でも手間が省けますよね。いつも行っている薬局ですから、お父様が薬を受け取る際の表情や会話に変化がないかなど把握していただき、何かの折に聞くのも良いと思います。

 お父様は自分で認知症にならないようにと思いながら努力して暮らしているのですから、加齢とともにお世話が必要になっても、さりげなく本人のプライドを大切にし手を貸すように心がけてください。必要だと思われるお世話も、お父様から見て大きなお世話だと思われないようにすることが認知症予防になるのではないかと思います。自分の力でできたというお父様の思いを認め、照れくさいけれど褒めることも重要です。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学