認知症110番

母にもっと違う介護をしていれば…

 93歳の母は約20年前から認知症で、私(長女・71歳)の家族と同居しています。孫たちは巣立っていき、現在は私たち夫婦と3人で暮らしています。現在の母は表情も乏しく動きも緩慢です。以前のような大変さはなくなりましたが、ふと、これまでのかかわり方でよかったのかと不安になることがたびたびです。デイサービスなどでは時折笑顔がありますが、家では無表情で声かけにも反応しません。もっと違う方法があったのではないか、母の顔を見ていると不安が増すばかりです。(山梨県、女、71歳)

【回答】長く頑張った自分を褒めて

 20年間もの長い間お世話をされてこられたのですね。お母様が元気なころは認知症に伴う行動に多々ご苦労があったことでしょう。家族の協力もたくさんあり、それぞれがよかれと思いかかわることで、笑顔になったり、逆効果だったり、多くの体験をさせていただくことで家族の絆は深まり、今に至っていると思います。そして、それらを経験することで多くの学びもあったと思います。

 そうは言いながらも、振り返ってみて、もっと冷静になって認知症を理解してかかわっておけば母の人生はより豊かになっていたのでは、と不安がよぎるのは自然なことだと思います。誰だって完璧なんてことはありませんし、不安を感じない人はいませんよ。

 認知症の研究や制度もかなり進んできましたが、最近のことですよね。それまでは手探り状況でした。認知症への理解が深まっても、家族としての気持ちやかかわりは複雑で正解はないと思います。あなたが苦労しながらかかわってきたことは、お母様にとっては必要不可欠だったと思います。努力した自分を褒めてください。認知症は進んでいく病気ですので、20年という長い期間よくお世話をしてきたと考えた方がよいのではないでしょうか。丁寧にかかわってきたからこそ悩んでおられるのだと思いますし、疲労が積もり重なって、あなた自身の気持ちにゆとりがなくなってくるのも当然です。あなたの健康はいかがですか、お母様の健康に配慮していて、自分の健康管理を後回しにしていませんか。自分が健康でないと他者に優しくなれませんよね。時にはお休みも必要ですよ。

 お母様は自分から要求することはなくなり、あなたはお母様が困らないように配慮しながら先に先に手を貸しているのではないでしょうか。お母様自身では何もできなくなっているように思えるかもしれませんが、時間をかけてゆっくり見守ってあげることで、できることはありませんか。例えば、食事の前にテーブルを拭いてもらうことなどでもよいと思います。終わったら感謝のありがとうの声かけが大切です。ほんの少しできることを探してみるのも一つの方法だと思います。昔得意だったことを思い出して活用できることはありませんか。少し見方を変えてみませんか、新たな発見がありますよ。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学