認知症110番

以前の趣味を勧めても迷惑そうな父

 83歳の父は3年前に母が他界してから長女夫婦と同居しています。父はもともと寡黙で外に出ることも少なく、家で読書、新聞、碁をひとりで指したり、少額ですが株を買ったりして楽しんでいました。最近は新聞にも目を通さなくなっています。日常生活はできていますが会話もなく意欲もなくボーッとして時間が過ぎてしまいます。「本や新聞を読んだら」「近所の碁会所にでも行ったら」と言ってしまいますが、迷惑そうな顔をします。認知症にならずに元気で過ごしてほしいのですが。(群馬県、娘、51歳)

【回答】答えられるような話しかけを

 これまでのお父様は読書や株、碁を指すなどで自分らしく過ごされていたとのこと。最近はそれらから遠ざかり、何もせずに過ごしている姿を見ていると、認知症になってしまう恐れがあるのではないかと危惧され、つい何かをするように声をかけてしまうのでしょうね。娘としては日々有意義に過ごしてほしいと願うあまり、指示的な言葉になってしまう気持ちよくわかります。

 声をかけられるお父様の気持ちはいかがでしょうか。お母様が他界されてからあなたたちと同居され、それまでの生活と違う環境で暮らすことでいろいろ気を遣ってこられたと思います。生活には慣れてきたものの、加齢とともに身体機能が低下し、文字が読みにくくなって長時間の読書や新聞を読むことに疲れてしまったり、株や碁など頭を使うことがしにくくなってきたりしているのではないでしょうか。お父様自身も気づいてはいるものの、どう対処しようか思っているところにあなたから声をかけられ、そうしようと思いながらも穏やかな気持ちで受け取れていないように思えます。

 あなたはお父様を心配して言っているのでしょうが、心のどこかでこのままでは認知症になってしまう恐れがある、だから心身の活性を低下させないよう頭や体を使って欲しいと思っているのでしょう。そうした気持ちがお父様に伝わり、お父様はあなたの思いやりよりも、指示されているように感じ、プライドが傷つけられているように思えます。

 声をかけるときは「本や新聞を読んだら」と直接言うのではなく、お父様が興味のある記事の内容などを共有するような形で「○○の記事はこれからどうなるのかしらね」「○○株の優待券は今度どんなものなの?楽しみにしているわ」などと、お父様が答えられるように話しかけるのも一つの方法だと思います。お父様が主体になれるように声をかけることを意識するとよいと思います。

 そうは言っても、加齢とともに認知機能も低下しますので温かい気持ちで日常生活の状態を把握することも大切です。いくつになっても父親としてあなたに接していたいという気持ちは大きいと思います。いつまでも威厳のある父親としての役割が発揮できるように、娘として子どもとして工夫してみましょう。かつての写真などを活用するのもよいと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学