認知症110番

大変な時期を過ぎ穏やかになった母

 93歳の母は長女(私)夫婦と同居しています。母は15年前に認知症になり、当初はいろいろ悩み、心身とも疲労でいっぱいでしたが、最近は穏やかで特に困ることはありません。手は貸しますが普通に生活しています。先日11歳の孫から「ひいおばぁちゃんはいつも静かにしているのに、どうして『認知症だから』と言うの?普通なのに」と言われ、ハッとしました。孫にまで影響を与えているという意識がなかったので、後ろ姿を見られているとは気づきませんでした。(長野県、娘、70歳)

【回答】もう「認知症」と言わないで

 お孫さんの感性に返す言葉がありませんね。認知症になった初めは戸惑いや驚きで大変なご苦労があったことでしょう。心も体もへとへとで、その場その場で悩みながら対応し、周りの方々も四苦八苦されたことでしょう。現在のお母様は、その時とは比べものにならないくらい穏やかな日々。しかし周りの方々には、大変な時期のことが気持ちの中にどっぷりと残っているのでしょう。お孫さんにとっては、その大変だった時のことはそれほど印象に残っておらず、今の穏やかなひいおばぁさまの姿を見て疑問に感じるのでしょうね。

 一度認知症になると、いつまでも「認知症の○○さん」と言ってしまいます。認知症という言葉に違和感もなく、自然に言ってしまいますよね。認知症の研究や制度が進み、毎日ニュースで話題になっています。多くの方が理解するのはとても良いことです。ただ、表面的なことだけで、十分に本質が伝わっているのかと思うこともありますね。認知症の方々の尊厳を守ることは重要だとだれもがわかっていますが、実際にそうであるかどうか。特別な配慮は必要ですが、認知症だからということで特別視していないでしょうか。確かに認知症の初期は双方が混乱の渦に巻き込まれてしまいますが、穏やかな現状では、認知症という言葉は必要ないですよね。むしろ、お孫さんのように変だなあと思う気持ちがうれしいですね。

 認知症は病気ですので、穏やかになったら認知症という冠は外しましょう。例えは悪いですが、「認知症の○○さんが亡くなられた」のではなく、「○○さんが亡くなられた」のです。一人の人間として最期を締めくくりたいですよね。言葉では言い表せないほど疲弊したことは事実でも、共に過ごした一度限りの人生です。なかなかできない体験が自分自身の器を大きくしてくれたと考えてみませんか。

 お孫さんの一言は大きな気づきですね。お母様への介護は、周りの人たちへの生きた教材でもあります。いろんな場面で貴重な経験をしながら、人の生き方、あり方を学んでいるのですよね。気持ちをリフレッシュし、お母様へのかかわり方を通して、お孫さんをはじめ周りの方々に自信をもって良い影響を与えてください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学