認知症110番

母の認知症 私のせいではと後悔

 93歳の母は若い時に夫を亡くしました。2人の子どもを育て、子どもが独立後は独りで暮らしていましたが、5年前に認知症と診断され、私たち長女夫婦と同居するようになりました。足腰が弱くなり物忘れがあります。手助けすれば困るほどではありませんが、デイサービスを嫌い、外出もしません。老猫の世話やときどきの外食、ひ孫を訪れる時以外は、家で気ままに過ごしています。刺激のない生活でよいのか、一生懸命働いてきたのに、側にいる私が積極的に動けばよかったのかと、後悔と不安でいっぱいです。(静岡、長女、71歳)

【回答】もっともっと自分を褒めて

 お母様にもっといろいろなサービスを利用してもらえるようにしていたら、認知症はあっても楽しく過ごせたのではないか、嫌だという旅行なども工夫して連れていけば楽しくできたのではないか、積極的に外出や活動、他者との交流を図ればよかった、などと考えておられるのでしょうね。

 現状は足腰が弱くなり外にお連れするにも配慮が必要になっている、お母様の気持ちを尊重しているうちに、年を重ねて静かな生活になってしまった。振り返ると、一人で子育てをして苦労も多かっただろう、楽しみも十分ではなかったのではないか、独り暮らしで変化なく過ごし、それらが積み重なって認知症になったのではないか。そう悩み、もっと自分が工夫し、関わりを深くしていればと自分を責めているのではないでしょうか。

 もっともっとと考える気持ちには同感できます。しかし、お母様の人生はお母様のものです。子育てが大変だったことは理解できますが、子どもが成長し独立できた喜びは、苦労と隣り合わせで大きかったように思います。独り暮らしだって誰にも気兼ねなく自分の意思で判断や行動ができることは嬉しいことだと思います。考え方によりますが、自由で束縛がないことで豊かな気持ちになれたのではないでしょうか。

 認知症と診断されていても、特に困ったこともない状況ということは、あなたがお母様の意思を尊重し、プライドを守り、適切な関わり方をしているから認知症も進まず、安定しているのだと思います。お母様に合った関わり方だったからこそ、平凡に見える安定した生活ができているのですよ。

 これはとても大切なことで、だれにでもできることではありません。あなたは後悔する気持ちを持っておられますが逆ですよ。これほど穏やかな生活ができていることは、あなたが状況に応じた適切な援助をした証拠です。もっともっと自分を褒めてください。

 ペットの猫の世話することはお母様にとって生活の中で重要な役割ですよね。猫に癒され、たまに行く外食やひ孫との触れ合い等々、楽しみは十分あると思います。平凡に見える生活ですが、これが継続できることが幸せであり喜びだと思います。あなたの力が大きいことを再確認してください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学