認知症110番

離職し、故郷で父と同居すべきか

 78歳の父の物忘れが目立ってきたため、呼び寄せて一旦同居を始めました。しかし、都会のマンション暮らしで外にも出ず、元気がなくなってしまったため、父はまた独り暮らしに戻りました。母は5年前に他界し、私は一人っ子。日中はできるだけ早く帰宅し、家事などをしましたがうまくいかず退職を考えました。父のもとには新幹線で3時間かかり、訪れるのは月1回が限度です。現在父はデイサービスや訪問介護サービスを利用しながら近所の方々に支えられて暮らしていますが、私が退職し故郷に帰って同居しようかと迷っています。(長男、50歳)

【回答】誰かの犠牲にならないで

 あなたの複雑な気持ちお察しいたします。お父様を呼び寄せて暮らしたものの、なかなか都会の暮らしになじめず元の暮らしになったということですが、あなたは快適な暮らしができるようにといろいろ工夫をされたでしょうし、いくら努力しても思うようにいかない現実に直面し、ご苦労されたことでしょう。心身共に燃え尽きてしまいそうになったと思います。その努力を無駄にしないためにも、今回のことを振り返って考えてみましょう。

 お父様はお母様が亡くなられた後、一人でなんとか暮らし続けてきましたが、物忘れが出てきて他者の援助が必要な状況になりました。それでも、住み慣れた家で自分のペースで過ごされてきた状況から、知らない土地でのマンション暮らしに変わりました。日中一人になるのは同じでも、家の中から見える風景は大きく変わり、周りは見知らぬ人ばかりで会話もない。生活そのものも受け身の日々で刺激は少ない、となると意欲は低下していくばかりだったのではないかと推察します。このような状況を続けていくことは、お父様にとってよい環境とは言えないと思います。

 やむを得ず元の生活に戻り、あなたはかなりの時間をかけて往復せざるを得ない状況になりました。仕事を辞めるかどうか、身内に介護の必要な人がいる多くの方々がこの問題で悩みます。自分だけで悩まないで、社会資源の活用に目を向けましょう。現在は多様な介護サービスがあります。介護保険制度や住んでいる地域のサービスなど、その人の暮らし方を尊重しつつ利用することができます。家族が遠方にいても、連絡を取りながら使うことが可能です。

 まずは、お父様の住んでいる地域の地域包括支援センターに連絡し、どのようにすればよいか相談してみましょう。合わせて市区町村のホームページでどのようなサービスがあるのか、確認することをお勧めします。出向かねばならないこともあるかと思いますが、遠慮せずに事情を説明してください。あなたとお父様の双方にとってよい環境で暮らせることを選び、仕事は辞めない方向で考えましょう。離れていてもそれぞれにあった生活をしていくことを優先しましょう。誰かの犠牲にならない生き方がよいと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学