認知症110番

旅行先での母の行動に呆然

 81歳の母は独り暮らしをしています。長男の私は独身で、仕事の関係もあって3時間くらいかかる所に住んでいますが、月に1回は帰るようにしています。母は物忘れが多くなってきたものの、生活はできています。年末年始くらいは親孝行を、と思い温泉に3泊4日で行きました。ところが、温泉から上がってきたら他の人の服を着てウロウロしていたそうです。経緯をホテルの従業員から聞き、呆然としました。その後はホテルの方々の協力で何とか過ごすことができましたが不安でいっぱいになりました。(長男、54歳)

【回答】これからも多くの楽しみを

 貴重な休みを使って親孝行をしようと温泉旅行に行ったものの、期待通りにはいかず複雑な気持ちになられたことでしょう。おひとりで生活されているお母様について、物忘れはあっても何とか生活できていると思ってこられたのでしょう。しかし、温泉旅行に行って初めて物忘れの状態が現実として目の前で起こり、戸惑われたことでしょう。家での生活は長年繰り返し行われてきたことなので、流れでできてしまうことがたくさんあります。ですが場面が変わる知らない所だと、そこのルールに応じて動くことが求められます。そのくらいはできるだろうと意識することもなかったことが突然起ったのですから、あなたの心中は穏やかではなく不安が膨らんだことでしょう。

 お母様はいつも通りかごに衣類を脱ぎ、温泉につかられたのでしょう。しかし、あがってさて服を着ようとしたら、同じ篭がずらりと並んでいます。中に入っている物も同じ柄の浴衣のようなものとなれば、一瞬分からなくなりますよね。普通は、自分のかごのあった場所や着ていた衣類などから判断しますが、その短期記憶が分からなくなってしまい、他人のものを着てしまったのでしょう。やはり、単なる物忘れではなく認知機能が低下してきていると判断した方がいいように思います。時間もなく忙しいとは思いますが、一度物忘れ外来等の受診を勧めます。同時に、お住まい近くの地域包括支援センターなどにも相談してはいかがでしょうか。不安を抱えていないで、お母様がお母様らしく生活できること、そしてあなたが安心して仕事ができる環境を考えましょう。一人で抱え込まないことが大切です。一歩踏み出してみるといろいろな情報が入ってきて、選ぶことができます。

 今回大変ご苦労をされたことで、「2度と温泉旅行は行かない」などと思わないでくださいね。旅行の付き添いや、現地での介助などいろいろなサービスがあります。自費にはなりますが、活用して多くの楽しみを体験していただきたいです。いつもとは違うことで不安はあるものの、楽しみも味わうことができます。忘れてしまうこともありますが、その時その時では楽しく感じています。そうしたことの積み重ねが生活の豊かさですよね。今回の温泉旅行はお母様にとっては何よりも楽しい時間だったのではないでしょうか。旅行の時の写真などを見せると納得すると思います。お母様の身近に写真を飾るのもいいと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学