認知症110番

ドア越しの面会、やめた方がいい?

 82歳の夫(要介護4)は認知症で常に介護が必要になり、1年前から特別養護老人ホームで暮らしています。入所後は毎日面会に行き、落ち着いていました。しばらく新型コロナウイルス感染防止のため面会できずにいたのですが、1カ月前からドア越しなら可能となり、毎日顔を見に行っています。ただ、夫はドア越しの面会を理解できず、ドアをたたくなど不穏になります。職員の方々は優しく取り持ってくれますが、かなり手間をかけてしまうので、面会はやめた方がいいのか、と迷います。(妻、78歳)

【回答】多様な対応 知恵を出し合って

 あなたの複雑な気持が伝わってきます。認知症になった夫が家で穏やかに暮らせるようにといろいろ工夫や努力を重ね、悩みに悩んだ結果、特養ホームへの入所を選択したのだと思います。毎日面会に行くことで、夫には従来の生活が続いていると思ってもらえるようにしてこられたのでしょうね。誰にでもできることではありません。毎日あなたが顔を見せて話しかけていたことによって、特養で安心して暮らせていたのでしょうね。夫が安心する姿を見て、あなたも安心して暮らせていたのだと思います。新型コロナへの感染防止で毎日できていた面会ができなくなり、双方が不安な状況になってしまったのでしょうね。特に状況が理解できない夫の不安は図り知れないでしょう。そのことがあなたにも痛いほど分かり、苦しい気持ちになるのでしょうね。

 特養でも入所者の方や家族のことを考えて、動画の配信やオンラインの使用、ドア越しの面会を考えたのでしょう。あなたは、夫があなたの顔を見るとドアを開けるなどして職員の方々に手間をかけてしまう、それでなくても手がかかる夫のケアの状況などから、面会をやめるべきかどうか、自問しておられるのでしょう。

 よくわかりますが、職員の方々はいろいろな状況を把握したうえで、よいと思われることを試みているのでしょう。夫にしても、今まではそばにいた妻がドアの向こうの手の届かない所にいることの不思議さは理解できないと思います。ドアをたたいたり開けたりしようとする行動は当然だと思います。逆に何もせず、見つめているだけなら変だと思います。妻のあなたを見て気持ちが動き、そばに行こうとする行動は優しい感情があるからなのだと理解しましょう。職員はどう対応すればよいか考え、工夫を重ねます。予想もしていなかった新型コロナの感染拡大には戸惑いながらも、ケアのあり方を模索していると思います。

 いつまでこの状況が続くかはわかりませんが、「ウイズコロナ」の考えでいきましょう。あなたが面会に行くことで職員に手間をかけてしまうなどとは思わないで、複雑な気持ちを職員に伝えてください。職員は課題解決に向け、創意工夫をしていくと思います。「現場力」でさまざまに工夫を重ね、試行錯誤をし、多様な対応を編み出していくでしょう。誰もが経験したことのない事態ですから、共に悩み知恵を出し合いましょう。気持ちだけは豊かに前向きでね。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学