61歳の男性、独身で独り暮らし、一般企業に勤務しています。数年前からもの忘れが多くなりました。仕事では頻繁にメモを取り、困らないようかなり気を使っています。自分でも若年性の認知症だと思っていますが、受診はしていません。診断されて仕事をやめることになったらこれから先の生活に支障が出るためです。ただ日常生活では下車駅を間違えるようなことが増え、さすがにこのままではいけないと悩んでいます。先のことを考え困惑しています。(男性、61歳)
これまでひとりで悩みながら工夫に工夫を重ね、頑張ってこられたのですね。冷静に客観的に自分の状態を把握し他者に伝える力もあり、あなたが困惑している状況は十分すぎるくらい伝わってきます。仕事はあなたの努力で何とかできていても、定年まで維持できるか予測はできず不安でいっぱい、他の方々もあなたがそれほど努力を重ねて仕事をしているようには見えず、まじめな社員であると思っているのではないでしょうか。
でも実際は毎日かなりの努力を重ねて疲弊し、現状維持が難しくなってきていることを受け止め、今後どうすればよいか悩んでおられるのだと推察します。ただ、あなたの日々の努力や現状をどれだけ理解できているか正直分かりません。一緒に考えたい気持ちは十分ありますが、なぜか上から目線のような感じになってしまい気が引けます。
しかし、これだけはあなたに伝えたい。「これ以上ひとりで頑張るのはやめましょう」。同じ悩みを持っている人とつながったり、認知症外来を受診して適切なアドバイスを受けたりしてはどうでしょうか。
会社だって状況を話せばいろいろ対応してくださると思います。今は以前と違ってかなり認知症の方々への理解が深まり、支援も多様になってきました。自分から行動することで、他者とのつながりを持ち、話し合える状況を作ってはいかがでしょうか。
一人では考えや行動が狭くなってしまいます。他者と付き合うと気を使うこともありますが、人とつながって多様な情報や気持ちの安らぎを得ることの方が大きいと思います。認知症の当事者グループは本人同士が話し合い活動していることが多いです。居心地が良いと思えるグループを探して自分の思いを話せる場を持ちましょう。徐々に活動範囲を広げていくうちに、不安も小さくなっていくと思います。
繰り返しになりますが、ひとりで頑張るのはやめましょう。人はそれぞれの生き方があり、さまざまです。当事者になって初めて気づくことはたくさんあります。あなたが暮らしの中で困ったことなどを当事者として発信することが多くの方々の理解につながり、より暮らしやすい社会の一助になるのではないでしょうか。共に生きる社会を一緒に試行錯誤しながら歩んでいきましょう。
回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学