認知症110番

夫が子や孫の尊敬失うか心配

 76歳の夫と妻の2人暮らしです。夫は数年前から物忘れが顕著になり、妻の私がそれとなくフォローして生活をしています。子どもは長男と長女で2人とも遠方に住んでいて、帰省は年に数回です。先日、帰省した娘家族と食事に出かけると、トイレに行って戻れずにうろうろしている夫の姿を娘が見つけ、「最近のお父さん認知症なのでは。受診した方がよくない?」と言われました。認知症だと思ってはいますが、子どもたちのためまじめに働いてきた夫が子や孫たちから尊敬され続けてほしいと願い、受診の有無を思案中です。(妻、71歳)

【回答】受診して夫婦の生活優先を

 これまで家族が協力し合って温かい家庭を築いてこられ、その中心であった夫、その夫を支えてこられたあなた、日々優しいまなざしで家族全体のことを考えてこられたのだと思います。頼りがいのあった夫は定年後、徐々に物忘れが目立ち始めた、それでも日々の生活ではご主人が困らないようにあなたが先回りをしてフォローすることで、ご主人もプライドを保つことができていたのではないでしょうか。

 あなたも認知症ではないかと思いながらも、子どもや孫たちには以前のように尊敬されてほしいとの思いが強く、お子さんたちには現実を話さないまま過ぎてきたのでしょう。ただ、もう隠し通すことが難しくなり、思い悩んでおられるのでしょうね。

 お子さんも心配して言われたことですし、最近では社会でも認知症への理解が広がり、以前のような偏見は少なくなってきたように思います。折角お子さんが心配してくださるのですから、あなたの気持ちは痛いほどわかりますが、これからのことを考える機会として認知症外来を受診し、今後の対応について相談しながら、介護保険サービス等についても考えてはいかがでしょうか。

 お子さんやお孫さんたちは今までの生活から、ご主人が認知症になっても尊敬する気持ちは変わらないと思います。それより現状を把握し、適切に対応することを望まれていると思います。遠方におられ、そばにいて直接手を貸すことができにくい状況ですから、より心配なのではないでしょうか。お子さんへの気持ちより、今後ご夫婦が日々快適に過ごせるようにすることを優先しましょう。

 認知症の場合、時とともに認知機能が低下していくのが一般的です。ご主人に対してどのような理解が必要なのか、ある程度理解されていると思いますが、この際ですから医師や福祉の方々から情報を得て、自分たちに合った過ごし方を模索し、あなたの負担にならないようにしましょう。これまでかなり神経を使いながらご主人のプライドを傷つけないように努力されてこられたと思います。この辺で少し肩の荷を下ろし、ご主人もあなたもそれぞれ努力しすぎないようにしましょう。できれば、あなたが一人で楽しめる時間をつくり、趣味や好きなことをする機会を作りましょう。一人で抱え込まず、子どもたちとも相談し、外部のサービスを考えましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学