83歳(認知症、要介護1)の母と長女の私、夫(66)の3人暮らしです。夫は定年で家におり、私はパート勤務をしています。母はデイサービスを週2回利用していますが、動作が緩慢で私はつい先回りをして指示してしまいます。一方夫はゆっくりと話しかけ、母の動きを見ながら対応するので時間がかかります。私はこのゆったりしたペースにイライラし、またこのままでは認知症が進むのではないかと心配しています。ただ、母は夫といるときは穏やかなのに、私が何か言うと不安そうな顔をします。そこが気になっています。(58歳、長女)
お二人がお母様に良かれと思いながら介護をされながらも、それぞれの関わり方に違いがあるのですね。あなたはお母様が安全に過ごせるよう何か行動をする前に指示をし、スムーズに動けるようにすることで安定した生活ができ、認知症も進まないと思っているのではないでしょうか。
一方ご主人は、お母様ができそうなことには声かけをし、動きを見ながら次の行動へとつないでおられるのでしょう。お母様が能力を発揮できるように反応を見ながら次の声かけをしているので、一つ一つの行動には時間がかかりますよね。自分でできることを自分でしてもらうのは良いことだ、と頭では分かっていても、現実には時間がかかり、効率よく家事をしたいあなたにはまどろこっしいばかりでなく、認知機能の低下につながっていくのではないか、現状維持ではなく少しでもできることを増やしていくのが重要ではないか、と思っているのではないでしょうか。
お二人の介護についてはどちらが良い悪いではなく、それぞれがその時の状況で判断すればいいと思います。安全が最優先と思われる場合は、具体的な指示をした方がいいと思います。日常的には、お母様の持てる能力を十分発揮できるような声かけと待ちの姿勢が適切です。しかし、日常生活は理屈通りにはいきません。大切なのはお母様の表情が豊かで笑顔が見られることと共に介護をするお二人が疲れ過ぎず、それぞれ自分の時間を持てて楽しめることだと思います。365日介護は続くのですから、時にはため息が出たり、イライラしたりすることもあるでしょう。それを認め話し合いながら、息抜きをしつつ関わっていきましょう。
お母様は過去の経験を生かして自分で動くときは笑顔が見られ、自信に満たされているようではありませんか。過去の経験には豊かな知識や思い出が詰まっています。そうしたことを思い出しながら暮らしに生かすことで心が安らぐからではないかと思います。
その豊かな経験や知識は小さな図書館みたいなものです。若い時代は歴史とともにその時代を歩み、いろいろ経験するなかで豊富な学びもあったと思います。それを上手に活用することで、お母様は生き生きしていた頃の自分に戻ることができ、あなたたちが知らない情報に出会うこともできます。新たなことに挑戦するのではなく、過去の経験を活かした対応をすることでお母様、あなたたち双方とも穏やかに過ごすことができると思います。
そうは言っても毎日続く介護には疲労が伴います、定期的にショートスティなど介護サービスを利用し、息抜きをして自分たちの活性化を図るようにしてください。
回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学