読んでみた

認知症を生き抜いた母 極微の発達への旅

安岡芙美子著/本体1600円+税/クリエイツかもがわ(075・661・5741)

 認知症の親を介護した体験記は珍しくないが、高齢者福祉の研究者が自分の母をみとっての実感は「人間は死ぬまで発達課題を持ち、認知症になっても発達する」という貴重な報告となっている。

 もちろん、ゆっくりと記憶や体力が後退していくのにあらがうことはできないが、悪戦苦闘しながらも、制度をうまく使い、周囲の協力を得て、また何よりも本人の側に立って伴走し、よいケアを心掛ければ、意思の疎通も可能で、おだやかな終末を迎えられるという。

 専門知識を生かしての体験記は、環境さえ整えば認知症がゆっくりと進行するという事実を明瞭にとらえ、初心者にもわかりやすい読み物になっている。制度の不備を突く指摘も的確で鋭い。

 母親への愛情にあふれた記述が読後感を心地よくしている。