読んでみた

認知症鉄道事故裁判 閉じ込めなければ、罪ですか?

高井隆一著/本体1600円+税/ブックマン社

 認知症鉄道事故裁判 閉じ込めなければ、罪ですか?/高井隆一著/本体1600円+税/ブックマン社

 認知症をめぐる裁判でこれほど大きなニュースになったものはない。この本は、裁判当事者の手記に加え、応援した医師や弁護士、元厚労官僚、新聞記者ら10人の寄稿で構成した闘いの記録だ。

 91歳の認知症の男性が一人で外出し、愛知県大府市の共和駅構内で列車にはねられて亡くなった。悲嘆にくれたいたところに、JR東海が720万円の損害賠償を求めてくる。列車遅延に伴う振替輸送費や人件費だという。同居していた妻(当時85歳)や単身東京で働いていた著者(長男)らが被告となり裁判が始まる。

 父親は84歳で認知症との診断を受けた。自宅に住み、デイサービスを利用しながら「自由で生き生きとした」生活を送っていた。著者は東京で建設会社に勤務、妻が父母の家近くに住んで世話をし、週末には著者も帰るという生活だった。焦点は民法にいう監督義務を問えるかどうかで、副題の「閉じ込めておかなければならないのか」が争われた。

 著者らは1審、控訴審で敗訴したが、最高裁で逆転勝訴を勝ち取る。家族に責任はなく賠償義務もないというものだ。認知症の患者が関係した事故の賠償責任について最高裁が初判断を示した画期的な判決である。

 不慮の死とは言え、認知症になってからも住み慣れた自宅、地域で生きた父親の人生が幸せだったと見る著者の暖かな記述が心に残る作品だ。