読んでみた

総介護社会

小竹雅子著/本体840円+税/岩波新書

 障害児の就学運動に携わっていた著者は1996年、法案が審議されていた介護保険に関心を持つ。「利用者の自己決定、自己選択の制度」という厚生省(現厚生労働省)の説明が、従来の国の姿勢を一変させるものだったからだ。その後、著者は介護保険の電話相談を始め、00年度の制度発足を迎える。それから間もなく、当初の希望は失望へと変わる。

 相次ぐ給付カットにより、「自己選択」の余地が大きいホームヘルプサービスなどは縮小の一途。介護職の不足が続くなか、利用者は「自己決定」はおろか「制度あってサービスなし」の状況に追いやられている。改善を働きかけようにも、介護が必要な人は自分たちだけで立ち上がるのが難しい。さりとて、介護をしている人にはゆとりがない。

 それでも著者は諦めない。介護をしている人だけでなく「介護未満」の6000万人に関心を持ってもらうことが重要と説く。世代を問わず所得に応じた「応能負担」に改め、移動支援や重度訪問介護のある障害福祉サービスを基本とした制度に変えていくことで、「介護がある暮らし」を普遍化できると訴える。

 一冊で介護保険制度の歴史、仕組みと課題のほか、利用方法、負担額まですべてを把握できる好著だ。