読んでみた

老いと記憶 加齢で得るもの、失うもの

増本康平著/本体780円+税/中公新書社

 高齢者心理学の立場から、記憶のメカニズムや加齢による変化を解説している。老いを前向きに受け入れるヒントにあふれる本である。

 人生を通じて獲得した知識は蓄積され続け、年をとっても忘れないし、それが「知恵」の基盤になるのだそうだ。「知恵」とは「成人期以降に出現し高まる能力」であり、学問知や経験知、判断力や対人スキルなどを含む。加齢によってほとんど低下しない能力だという。もう一つ、日常生活での習慣も忘れにくいので、若いうちからよい習慣を身につけておくのがお薦めだそうだ。

 とはいえ、遅かれ早かれ認知機能の低下は避けられない。そこで著者はスマホの使用を勧める。情報を手軽に扱える道具は「(若い層より)高齢者に特にメリットをもたらすはず」だからだ。高齢者にはその習得が壁になるが、覚えやすい「体を使っての記憶」つまり「教えてもらいながら自分で操作してみる」ことで克服できる。これも楽しく豊かな老後を生きるための提案といえる。