読んでみた

ゆかいな認知症

奥野修司/950円/講談社現代新書

 認知症になったら何もわからなくなる——。そんな誤認を打ち砕いてくれる、認知症の人たち14人の生の声を取材した一冊だ。

 筆者は若年性認知症と診断された兄の晩年、見舞いに訪れなかった。「何を言ってもわからない」と思い込んでいたから。だが兄の死後「本当にそうだったのか」と疑問がわき、多くの当事者に会いに行った。

 小学校の校長だった男性は認知症と診断され、長く引きこもっていた。しかし、嫌々出場させられた認知症の人たちのソフトボール大会でMVPに選ばれ、自信をつけた。いまは自分の位置が妻に伝わるスマートホンを携え、1人でもどんどん散歩に出る。道に迷えば人に聞けばいい。サーフィンにも挑戦した。愛知県の女性は空間認知障害から腕を服の袖に通すのには何時間もかかるけれど、日常生活に困る記憶障害はない。

 暴力を振るう人、徘徊する人にも理由はある。表現するのが難しくなっただけで、人としての基本、とりわけ感情は健常者と何ら変わらない。認知症も十人十色。当事者が何に困っているのかを知ることが、介護の基本と筆者は訴える。