文谷口政春・京都福祉サービス協会著/本体1600円+税/かもがわ出版
医師の妻「君ちゃん」が認知症を発症し、二人暮らしはたちまちピンチに陥る。著者の谷口氏と京都福祉サービス協会のヘルパーたちがどうやって窮状を乗り越えてきたか。エピソードを交えて克明に描かれている。
「君ちゃん」が発症したのは1989年で「在宅介護サービスも無いに等しい時代」。最初の数年は谷口氏が勤務の合間の世話で頑張っていたが、93年からヘルパーに見守りを頼むようになる。
初期のころ重視したのは君ちゃんを孤独にしないこと。折り紙など得意なことをして楽しく過ごすようにした。驚いたのは嫌いだった演歌が大好きになり、覚えた歌詞を谷口氏に教えだしたこと。認知症でも新しい記憶ができるのだ。
年を経て「夜間せん妄、昼夜逆転、失禁」と症状が進むが、試行錯誤の対応も詳しく記されている。そして2013年6月朝、谷口氏とナイトケアのヘルパーが見守る中、君ちゃんは命を閉じる。
著者の願いは「在宅サービスが充実し認知症になっても安心して暮らせる社会」。京都市左京区の自宅で月1回、「認知症カフェ・いきいき」を開いている。