読んでみた

福祉は生きもの

著者・長島喜一本体700円+税/文芸社

 著者のソーシャルワーカー歴は半世紀に及ぶ。その中で向き合ってきた、難病患者、高齢者、障害のある人らの生の声をすくい上げた渾身のレポートだ。

 50代の呼吸障害の女性は、発作が起きると緊急通報が命綱。だが携帯電話しか持たず、固定電話専用の市の制度は使えない。著者が働きかけ、市は例外として女性をスマホで緊急通報できる制度に登録したものの、制度改正の要求には「聴覚、言語障害者が対象で、拡大は不可」と拒んだ。福祉は生きものなのに、と感じる瞬間だ。

 30年以上前のこと。33歳の男性が末期がんで入院してきた。やせ細る夫に我を失い「本当のことを教えて!」と訴える妻。病院側は、乳飲み子を抱え不安で泣き叫ぶ妻に病名を伝えられずにいた。

 それでも妻は姉を通じて真相を知る。夫には言えず1人苦悶していたが、死期が迫るなか「知らないままなのは可哀そう」と思い直し、真実を告げる。夫はうなずき、やがて穏やかに逝った。

 著者は想像を超えて最期をしっかり生きた家族の姿に触れ、医療人として生きていく財産になったという。