読んでみた

ひとりが要介護になるとき。

山口道宏編著/1700円+税/現代書館

 「もう、帰っちゃうのね」。90歳の独居女性の声に後ろ髪を引かれ、ヘルパーは逃げるように老女の元を去るという。介護保険の生活支援サービスは時間や回数を次々削られている。「時間との闘い。ゆっくり利用者さんと話もできない」現状では、介護者による精神のケアなど望みようもない。

 国は在宅介護を推進する。が、単身の高齢者は急増する一方、介護の担い手不足は限界に来ている。認知症となると在宅で支えるのはさらに難しい。ルポの行間からは、現場を見ようとしない国に対する編著者の怒りがにじむ。

 ほぼ身寄りのない70歳の女性は、自宅で転倒して足を骨折し動けないでいた。受け入れる病院はなかなかなく、ようやく入院した先で女性は寝たきりに。唯一の身内は「延命は不要」と言った。

 ヘルパーが作業に追われ、食事の時間が15分遅れると高齢者の生活は排せつをはじめ、すべておかしくなるという。「生活自体をもっと重視した制度でないと在宅介護での独り暮らしは難しい」。著名なヘルパー、藤原るか氏の文中に出てくる発言は重い。