読んでみた

ボクはやっと認知症のことがわかった

長谷川和夫、猪熊律子著/本体1300円+税/KADOKAWA

 「長谷川式スケール」で知られる日本の認知症研究の第一人者が認知症と診断され、それを公表したことはよく知られている。最近の長谷川氏を丹念に取材した1月放送のNHKスペシャルをご覧になった方も多いだろう。この本は、新聞の取材を通じて長谷川氏と伴走してきた猪熊氏との共著で、認知症になってからの世界の見え方、自身の思いが詳しく語られている。読んでいくうちに認知症そのものについても良く分かるというよくできた本。

 「認知症になったからといって突然、人が変わるわけではありません。昨日まで生きてきた続きの自分がそこにいます」。なるほど、そうか、と読んだ人はひと安心するのではないだろうか。本人だけでなく介護する人にとっても役に立つ一言だ。

 表紙では柔和な表情が印象的だが、意外なことに、学生に厳しく接し「怖い教授」で通った時期もあるという。現役時代の通勤はクルマ。運転が大好きだったのにどうして免許を返上したのか。人生を支えたキリスト教との出会いや、支えてくれた奥様への感謝の気持ちなど、読むほどに魅力的な人柄が伝わってくる。