読んでみた

「自分らしく生きて死ぬ」ことがなぜ、難しいのか

野村晋著/本体920円+税/光文社新書

 誰もが住みなれた地域で自分らしく最後まで暮らせる社会——。国が掲げる「地域包括ケアシステム」の実現は、「費用負担」「人材」という課題の前に行き詰まっている。解決策として、「高齢者のため」と受け取られがちな同システムを「全世代型」に深化させ、「地域共生社会」に作り替える必要性を訴える、厚生労働省の現役中堅官僚による著書だ。

 現役世代ががんなどを患うと、「仕事か治療か」の選択を迫られる。同時に子育てや介護の問題を抱えることもある。多分野の福祉的支援とともに、介護サービスに「働くこと」を組み込むことなどを提言している。

 また、ヒト、カネの効率的配置のため、制度横断的な支援の構築を主張する。モンスターペアレントに疲れた保育士も、医療、介護現場で働くことができれば人材を活かせる。医療、介護、福祉間での転職を容易にし、他業界に転出させない仕組みづくりを提唱。「子ども食堂」のような非専門職を通じ、行政と「支援が必要になる可能性のある人」を細くつないでおく重要性にも触れている。