読んでみた

お父さんは認知症 父と娘の事件簿

田中亜紀子著/800円+税/中公新書ラクレ

 ピック病の80代の父を介護する娘によるてんやわんやの体験記。

 脳の前頭葉、側頭葉が萎縮する「前頭側頭型認知症」の一つがピック病だ。穏やかだった人が怒りっぽくなったり、自分勝手になったり、とにかく人との折り合いが悪くなる。未解明な部分が多く、治療法も改善薬もないというやっかいな病である。

 父は元来まじめで紳士的な元教師だが、ガラリと人格が変わってしまった。大好きな日課だった車での買い物も心もとなくなり、見かねた娘が「危ないから運転はやめて」と頼んだら、いきなり猛ダッシュで殴りかかってきた。一年がかりで免許返納にこぎつけたと思ったら、こんどは家中が血だらけという大事件が発生する。父は額の肉が大きくはがれ頭蓋骨が露出するという大けがだ。それなのにケロリとして痛みを感じない様子の父を見て娘は‥‥。

 読む人を引き込む事件簿だが、ノウハウの紹介も親切。精神障害者保健福祉手帳の申請や看護師のいる小規模多機能型居宅介護など、参考になりそうな体験も豊富だ。