読んでみた

認知症の精神療法〜アルツハイマー型認知症の人との対話

繁田雅弘著/3600円+税/HOUSE出版

 日本認知症ケア学会理事長でもある著者が、アルツハイマー型認知症の人にしてきた「支持的精神療法」を中心とする診療記録だ。患者の自尊感情や「私にはできる」という自己効力感を高める重要性を一貫して説いている。

 過去の話を聞く際に当時の気持ちを再体験できるようにし、共感することが大切という。認知症の人に運転免許の返納を拒否される例は多い。著者は運転の中止を「喪失体験」と捉える視点が必要と指摘する。車にまつわる思い出をたどりながら、運転が人生でどれほど価値のあるものであったかを聴き取り、「自分にとっての運転の大切さを理解してもらえた」と感じてもらえるようにする。「運転できない人になった」と説得し諦めさせる手法は否定する。

 この分野の権威の著者も、若いころは家族への遠慮から施設入所を断りきれない患者の心情を利用し、入所を承服させるなど「諦めさせる医療」をしていたという。「認知症の人の理解力や意思能力を見くびっていた」との告白からも、誠実な人柄が浮かび上がる。