読んでみた

『認知症の社会文化的表象』

城戸亜希子著、長田久雄監修/4400円+税/川島書店

 「認知症はこわい、避けたい」という恐怖心が強すぎるのは考え物である。認知症の人だけでなく、そうでない人々も、生きにくさが増してしまうからだ。そんな問題意識から、著者は恐怖心を緩める手がかりを探る。社会が認知症をどう見てきたのか、明治以来の文学作品や新聞記事などから分析したのがこの本だ。

 菊池寛「屋上の狂人」、島崎藤村「夜明け」、中村古峡「殻」、丹羽文雄「厭がらせの年齢」、安岡章太郎「海辺の光景」など多数の作品が登場する。目立つのは「老いによる狂気」「精神を病む老人」だ。

 特に重視されているのが有吉佐和子の「恍惚の人」(1972年刊)。80代の茂造の認知症が進行していく様子を息子の妻、昭子の視線で描いた作品で、高齢者福祉推進のきっかけにもなった。それに対し著者は「老醜無慚(むざん)、腐臭、地獄絵」「不快で汚く恐ろしい存在」など嫌悪を抱かせる表現が多いことに着目、「否定的認知症観がその後現在に至るまで強く影響を残している」と指摘する。

 最近はマンガや映画など多くのジャンルでも取り上げられ、認知症本人の視点からの描写も増えている。笑いやユーモアも含め認知症を前向きに捉えることができればというのが著者の思いである。