読んでみた

認知症の母を支えて

石塚武美著/幻冬舎メディアコンサルティング/1000円+税

 90歳の母に突然、こう言われた。「ところで私の前にいるあなたはどなたなの?」。息子は大きなショックを受けたが、それからの努力がすごかった。献身的な介護で母親を治していった心温まる体験記である。

 副題にある「103歳を元気に迎えるまでの工夫」が紹介される。まずは楽しいおしゃべりを3時間、そして手足、肩、首、背中の手もみ・マッサージ、好きな歌を10曲。これらを毎日の日課とした。定年退職後で十分な時間があったようだが、なかなかできることではない。母は心身ともに徐々に復活し、100歳ごろは普通の会話もオルガンを弾いて歌うこともできるようになった。

 87歳でかかりつけ医から認知症との診断を受けていたが、95歳で投薬を中止。高血圧の薬も不要になった。顔や体にはりが戻り、70歳ごろからの白髪頭に黒髪が増えた。

 認知症専門医による検査、診断を受けてはいないようだ。本当の認知症だったのか、それとも高齢者に起きやすい認知症に似た状態だったのか。いずれにせよ、著者の渾身(こんしん)の努力が心身への刺激をもたらし回復させたのだろう。老いた母への息子の深い愛情により、幸福で充実した暮らしを取り戻すことができた。