読んでみた

認知症 ありのままを認め、そのこころを知る

井桁之総(いげた・ゆきふさ)著/論創社/2000円+税

 2015年7月、医師の著者は東京の虎の門病院で「高齢者総合診療部」と「認知症科」を立ち上げた。事務方から「認知症科なんて名ではだれも来ません」と反対されたが、老年病科、脳神経内科、精神科の視点をそろえ、また認知症への誤解と偏見をなくすためにも不可欠と踏み切った。

 妻と施設に入所するアルツハイマー病の男性(81)は夜中に家に帰ろうとする。妻が理由を問うと「戸板を直しに」。2人は20代のころ、建て付けが悪い家に住んでいた。風音で眠れず、夫がベニヤ板を打ち付けたことがあった。妻が、息子が建設中の新居の写真を見せ「心配ありませんよ」と何度も諭すと落ち着いた。患者を一番知るのは家族であり、言葉や行動の意味を人生を振り返って考えてほしいという。

 認知症を家族の問題を表面化させる「家族的な病」とも指摘する。なのに多くの医療現場では症状を認知症の責任にし、抗精神薬で抑えている。「暴れている熊を麻酔銃で撃っておとなしくさせることと一緒」と喝破している。

 認知症の医学的な基礎知識も満載。