読んでみた

アルツハイマー征服

下山進著/KADOKAWA/1800円+税

 アルツハイマー病の正体は何か、治療法はないのか。これは「アルツハイマー征服」をめざして最前線で戦ってきた人たちの記録だ。どのように研究が進んだかはもちろん、研究者たちの野心や苦悩、多くの失敗例を含むさまざまなエピソードを掘り起こしていて、読む人を飽きさせない。

 家族性アルツハイマー病は30〜50代という若い時期に発症し、しかも確率50%で遺伝するという深刻な病だ。本書の冒頭に登場する青森のりんご農家の女性は、働き盛りの40歳で発症し、50歳で寝たきりになり、62歳で亡くなるという人生をたどる。親族でも若くして発症する人が多く、地元では「あたまのまき」が来たと言われていた。脳卒中については「あたりのまき」というそうだ。

 遺伝子の解明やPET(陽電子放出断層撮影)による脳内画像検査が大きな意味を持った。家族性アルツハイマー病の家系の若い人を検査することで、発症の30年前から原因物質の蓄積が始まることがわかった。新薬開発の治験対象者を若い人へ広める目安にもなる。

 製薬企業や研究者による創薬競争は壮絶だ。成功すれば天国、失敗すれば地獄が待っている。治療薬アリセプトの開発秘話や、期待の新薬アデュカヌマブをめぐる人間模様も興味深い。