読んでみた

ひろぽと暮らせば

三丁目いちこ著/ワニブックス/1200円+税

 「ひろぽ」さんは80代、認知症。同居する長男の妻である著者が、84歳で亡くなるまでの日常をマンガに描いた作品です。本当は「ひろし」ですが、救急病院に運ばれた際に自分で答えた名が「ひろぽ」だったのです。

 ある日、著者がなにげなく「おじいちゃん、元気?」とたずねたところ、「おじいちゃんは、もきもき元気だよ」と上機嫌でした。その声や腕を曲げて力こぶをつくるしぐさがかわいいのです。そこで後日、またその「もきもき」が聞きたくなって「おじいちゃん、もきもき元気?」と声をかけてみました。すると、今度は「もきもきってなんだ」「もき?」と逆に質問されてしまいます。もうすっかり忘れたようで、「二度と聞けない、ひろぽ語」だったのです。

 「ひろぽ」は大好物のカキフライを食べた後で「きょうはありまとねー」とお礼を言いに来ました。10分後にも、そしてまた数分後にも、著者がキッチンにいる間中に何度もお礼に来たそうです。

 本当は大変だったと思いますが、一つ一つのエピソードが可愛らしく描かれています。それにしても、こんなふうに家族にやさしく見守られて過ごせる人は幸せです。著者は「ただただ面白がっている」と書いていますが、そこがいいのかもしれません。やりとりする独自の「ひろぽ語」を通じて、愛し愛されている温かさが伝わってきます。