読んでみた

介護のことになると親子はなぜすれ違うのか ナッジでわかる親の本心

竹林正樹、鍋山祥子、神戸貴子著/Gakken/税込み1650円

 親は介護が必要なのにいくら説得しても拒否される——。家族だからこそ生じる介護を巡るすれ違いは、高齢者によくある自分に都合よく解釈を歪(ゆが)める「認知バイアス」によるものという。解決の鍵は「ナッジ」にあると唱える。

 ナッジとは「そっと後押しをする」という意味の英語。ノーベル経済学賞を受けた米国の行動経済学者、リチャード・セイラー氏が、ついそうしたくなる心理をくすぐって行動を促す「ナッジ理論」として提唱し、有名になった。

 高齢者によく見られる認知バイアスの一つ、「現状維持バイアス」を持つ母親の場合、以前と違って部屋がものすごく散らかっていても、「今まで大丈夫だったし、これからも大丈夫」と思いがち。部屋が汚いと責めても反発されるだけなので、「最近困っていることない?」と話しかけ、「ハンコがよくなくなるんだよね」と応じてもらえる会話の流れをつくることから始めるよう勧めている。

 著者の竹林氏は行動経済学者、鍋山氏は福祉社会学者、神戸氏は起業家兼看護師。8家族の事例を紹介し、それぞれの家族介護の経験や専門知識、そしてナッジを用いて親子のコミュニケーションを穏やかなものに変えていくヒントを提示している。