村井理子著/新潮社/税込み924円
義母は「関西ナンバーワンのきつい姑(しゅうとめ)」とうわさされ、また「完璧な主婦」でもあった。それが76歳だった2016年ごろから異変が生じ、19年に義父が脳梗塞(こうそく)で倒れたのを境に急激に悪化。レビー小体型認知症と診断された。
義父のヘルパーとの浮気を疑う義母は、就寝中の義父の額に家電製品のリモコンを振り下ろした。なのに全く覚えていなかった。運転免許の返納をかたくなに拒否し、最後は廃車にせざるを得なかった。知人に次々電話をかけ、「嫁にお金を盗まれた」「息子に家を乗っ取られる」などと訴えた。
義父母の介護からは逃げたいと考えていた。それでもエッセイストとしての好奇心、料理や掃除が難しくなったことで義父からいら立ちをぶつけられる義母の姿に「シスターフッド」(女性同士の連帯)を感じ、スイッチが入った。家事をできなくなったという理由で家族を献身的に支えてきた義母の人生が否定されるなんて−−。
診断から3年、周囲を圧してきた義母はすっかり穏やかになった。ただ「円くなったからではない」という。我が家にいる状況を把握できず、「お客さんのよう」に遠慮していると受け止めている。
そんな義母に接し、義父は身の回りのことを自分でするようになった。人間は90歳になっても変われることに希望を見いだしている。