読んでみた

2030−2040年医療の真実 下町病院長だから見える医療の末路

熊谷賴佳著/中公新書ラクレ/税込み1155円

 団塊ジュニアは満足に医療・介護が受けられない地獄絵を目の当たりにするだろう——。日本の近未来の医療・介護に関し、著者の京浜病院院長はこう指摘する。

 2040年までには、少子高齢化によるマンパワー不足が進み、どんぶり勘定で診療報酬を削ってきたツケが回ってくる。後継者のいない医療機関が増え、倒産も相次ぐ。介護施設は入居待機者であふれ、高齢者は独居宅で寝たきりにされる。運良く入居、入院できたとしても職員不足から放置され、手遅れになって苦しむ人が多かった「戦前」に逆戻りするという。

 医療崩壊が進みつつある最大の原因に、データに基づく医療政策が行われていないことを挙げる。医療費抑制の観点のみから「病院をもうけられないように」と診療報酬を抑えるばかりの日本。その結果、ビッグデータを解析し、医療政策に反映させてきたシンガポールや台湾、韓国に医療水準で水をあけられてしまったという。

 デジタル化が遅れた日本の場合、政府は治療の結果や症状の変化など各医療機関の医療内容を把握できず、検証できない状態が続いてきた。このままでは本当に削るべき無駄を減らせず、医療は破綻すると見通す。