繁田雅弘著/中山書店/税込み3520円
認知症として扱われることへの不安、理解してもらえない寂しさ……。著者は認知症の人の苦悩や葛藤を共有することで本人の意欲や自尊心を保つ支持的精神療法の第一人者だ。本人や家族との22の対話事例を通じ、言葉の背後にある感情や願いを理解しようとする自身の試みを記録している。
70代半ばの男性は、話題の新薬を使うか否かで揺れている。「(進行を遅らせる薬効で)稼げる時間をどれだけ有意義に使えるか」「今一番したいことは」。著者が問いを重ねるうち、本人は「治療の選択とは、自分がやり残したこととどう向き合うのかなのですね」と応じ、「どう生きるかなんて、認知症になっていなければ考えなかった」と告げた。著者は「結論はどちらでもいいと思った」と対話を振り返り、大切なのは本人が主体的に考え、悩み、決意を周囲が支えることだと記す。
母を「ボケ扱い」して施設入所を望む娘と、強く拒む母。それが一転、母自ら「入所する」と決断する事例も出てくる。日本人の場合、「家族のための入所」であっても必ずしも「自己犠牲」とは言えないと著者は指摘する。認知症の人が「世話されるだけの存在」から、最後に「子の生活を守る親」という最大の役割を果たすことで、「自己効力感と安心感を得るのではないか」と見る。
著者は、自分が自分でなくなっていく苦しみについて、「ただつらいだけではない」と説き、「生きるとは何か」という根本的な問いに向き合い、人生の深さを知るきっかけにもなりうるのではないか、と結んでいる。