読んでみた

静かなアリス

リサ・ジェノヴァ著、1700円+税(講談社)

 認知心理学の世界的権威として知られるハーバード大学教授、アリス・ハウランド。50歳。地位も名誉も家庭も恵まれた、人もうらやむ境遇に恵まれた彼女だったが、ある日、講演の最中に突然、言葉を失った。これまでも何度ともなく話してきたテーマだったのに、次の言葉が出てこない。さらに、ジョギング中、一瞬自分の家に帰る道順がわからなくなった。医師の診断は、「若年性アルハイマー病」だった。日々、壊れてゆく自分。大事な母が、やさしい妻がアルツハイマー病になったことに嘆き、悲しむ家族。診断を機に彼女の生活も仕事も、家族との関係もがらりと変わった。私はどうなるのだろう。薄れていく記憶、自分がだれであるかわからなくなるという不安、自分の意志ではどうにもならない未来への危惧…。「わたしが忘れてしまっても、わたしがあなたを愛していることを覚えておいてね」。全米を感動と涙でつつんだベストセラーの邦訳である。

財団報「新時代 New Way of Life」58号より