読んでみた

ルポ 認知症ケア最前線

佐藤幹夫著/800円+税/岩波書店

 「まだ認知症を治せる、治療できるという段階ではない」。本の冒頭、著者はアルツハイマーなど進行性認知症の医療の現状について語る医師の重い言葉を紹介する。その現実を踏まえ著者は、住み慣れた地域で結び直す新たな絆によるケアが必要と訴える。本書は、自閉症や高齢者医療にも詳しい著者が日本各地を訪ね、地域や制度、専門領域の違いを乗り越えてケアの質を高めていくさまざまな試みを紹介する。

 滋賀県守山市の「ものわすれカフェ」、富山市の共生型デイケアハウス、堺市の幼老複合型施設、東京の終末期から看取りまで向き合う訪問看護ステーション……。地域や関わる人の違いによってこんなにも多様で豊かな絆が結ばれていることを、著者は共感と確信を持って見つめていく。その感動は読者にも伝わることだろう。

2011年6月 財団報「新時代 New Way of Life」68号より