認知の母にキッスされ

ねじめ正一著/1750円+税/中央公論新社(03・5299・1730)

 直木賞作家の著者が認知症になった母を介護しつつ送る日々を時に生々しく、そしてユーモアあふれるタッチで描いた好著。

 病状が徐々に進んでいく母の姿を著者は忍耐強く冷徹に見つめる。しばしば登場する下の世話の描写はきれいごとでは済まない迫力があるが、著者の母への愛情あふれる眼差しに支えられ、コミカルな風合いも増す。「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇である」とはチャップリンの名言。著者は一歩引き観察者の目で見ているのかもしれない。

 俳句をたしなむ母子が一句浮かぶたびに評価をめぐって交わす会話も楽しい。時には激高した母から一方的に罵倒されるが、必死で次の句を思案する著者の姿は、ある意味、介護者の理想の姿のようにも見える。

 認知症も初期の頃であれば俳句などを続けることができる様子もうかがえ、示唆に富む。