長いお別れ

中島京子著/1550円+税/文芸春秋(03・3265・1211)

 認知症の人を描く小説や映画は増えているが、これほど深刻な内容なのに、読んでいて温かい気持ちになれる小説も珍しい。

 中学校長を何年も前に退任した昇平は、高校の同窓会に電車で向かい、最寄駅で降りた際に自分がいま何をしているのかわからなくなる。そのまま電車に乗って帰ってきて、様子のおかしい夫に妻は認知症を疑い、ものわすれ外来で初期の認知症と診断される。

 病状の進行はゆっくりだが、しっかり者の妻の世話を受けながら、3人の娘と孫たちとの「長いお別れ」はシリアスであり、介護のあり方を考えさせる。

 暗くなりがちなテーマを救っているのは、登場人物に対する筆者のあたかい目線とコミカルな語り口。孫たちの無理のない祖父との付き合い方がほほ笑ましい。

 介護によって認知症の人が落ち着いた状態を保ち、家族も変わっていくという幸福な関係が描かれている。