読んでみた

認知症の人たちの小さくて大きなひと言-私の声が見えますか?

永田久美子監修/1700円+税/harunosora(090・6796・8989)

 認知症の人は何もわからない、すべて忘れてしまう、心を失っている、という誤解があるが、実は豊かな感情や思いやり、人の役に立ちたいという気持ちを持つ実に人間らしい存在であることが、この本を読むとよくわかる。

 本に掲載された45人の認知症の人が発する「ひと言」には思わずうならされるだろう。たとえば86歳の男性を担当した女医。獣のように転げまわっていた彼としっかり向き合って、ある日「私は誰?」と尋ねた。返ってきたのは「オレノ、スキナヒト」。胸がいっぱいになり、また誰かのスキナヒトになりたいと高齢者医療を続ける。  一つ一つの「ひと言」を聞き逃さず書き残してくれる人がいた幸運に感謝しつつ、なお人間の可能性を信じたい自分がいる。