「ばあばは、だいじょうぶ」(2019年・日本 )
新しい一日始めよう
この数年、認知症の人を描く映画が相次いで公開されています。体に異変を感じた当人の目線で描いた作品もあれば、徐々に変わっていく様子を見守る家族の思いに寄り添う作品もあります。中には認知症を題材にしつつも家族のドラマと呼んだほうが相応しい文芸作品やドキュメンタリーもあります。本作品は認知症になった祖母(冨士眞奈美)と孫(寺田心)の二つの目線で描かれた家族の物語です。
原作は認知症になっていく祖母と小学生の男の子との交流を描いたベストセラー絵本「ばあばは、だいじょうぶ」(楠章子・作、童心社)。
両親と祖母の4人で暮らす小学生の翼は、どんなときでも励ましてくれるばあばが大好き。でも、最近ばあばは認知症が進み、何度も同じ質問をします。得意にしていた編み物もやりません。それだけでなく、急に怒り出したり、大切な植木を枯らしてしまったり。翼は優しかったばあばが怖くて、近づけなくなってしまいます。そしてある日、ばあばは靴も履かずに家を出てしまいます。
「そうかもしれない」「キセキの葉書」に次いで認知症をテーマにした3本目の作品を撮ったジャッキー・ウー監督は認知症になった人の姿をリアルに描いていきます。その様子に小学生の翼は「怖いもの」を見るかのように距離を置いていきます。でもカメラは現実を描きつつも突き放すようなことはありません。
たとえば、翼がばあばの部屋で見つけた箱には、自身の変調に気づいて彼女が悩んだであろう長い期間の葛藤を伝えるメモ類が詰まっていました。息子や孫を信頼するメモも見つかります。認知症になったら何もわからなくなってしまうのではなく、時には覚醒したりすることをうかがわせる内容です。
認知症の妻を介護する近所のお年寄りがこんなことを言うシーンも印象的です。「認知症の人はみんな忘れちゃうのではなく、新しく生まれ変わるんだ」と。「認知症になることを悔やんでいくよりも、朝起きた時に新しい一日を始めようと夫婦で思うようにしたんですよ」と続けて翼の家族に言うメッセージは、あるいは監督が観客へ伝えたい言葉にもなっているのかもしれません。
そして、ばあばは老いてからだれもがなるかもしれない認知症のことを、身をもって孫に学習させたともいえるでしょう。きっと彼は認知症の人に理解のある子になると思います。
ジャッキー・ウー監督には今後も認知症をテーマに撮り続けていくのかと聞きました。即答で返ってきたのは「僕のテーマなのでやらない訳にはいかない。題名も『60歳過ぎのラブストーリー』に決まっています」。パートナーを失った人同士が一つの介護施設で知り合い、青春を思い出していくというお話。完成が待たれます。
「ばあばは、だいじょうぶ」は全国イオンシネマ公開中(一部劇場を除く)
公式HP: https://grandmaisokay.com/
2019年6月