ロマン(2019年・韓国)

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出会った時の思い再び

 亭主関白を自認する夫が認知症の妻の介護に悪戦苦闘するなかで、思わずこのように発したのには訳があります。夫自身にも認知症の症状が出始めると、同病相哀れむではありませんが互いに相手の優しさに気づき、出会ったころの二人に戻ったようなロマンチックな時間が訪れたのです。

 最初に認知症の症状が現われたのは妻のメジャ(チョン・ヨンスク)でした。夫のナムボン(イ・スンジェ)は可愛い孫娘にも優しくできない頑固親父ですが、発病した妻をかいがいしく世話をするように変わっていきます。ところがメジャが同居する息子家族に暴力を振るうようになり、やむを得ず彼女を老人ホームに入れてしまいます。

 やがてナムボン自身も認知症の症状が出てくると、日中一人でいることが不安になり、妻を再び家に連れて帰ります。それに反発した息子家族は出ていき、認知症の二人の生活が始まります。

 この作品の見どころは、夫婦の会話です。認知症の症状は駆け足で進んでいくのではなく、まるでお別れするための貴重な時間を惜しむかのように緩やかに進みます。また具合のいい時は病気が治ったかのようにしっかりした受け答えで、双方の会話が弾むのです。

 「私のこと知ってる?」と妻のメジャが言えば、ナムボンが「ああ よく知ってる」と答えます。「私に何か言いたいことはない?」には「会えてうれしい」とナムボン。すぐメジャが「わたしも」と続けます。

 会話だけでなくナムボンはノートに「お前は俺のすべてだ」と「告白」します。昔の自分に戻って溢れる思いを伝えているかのようです。同じ家に暮らしながら、せっせと手紙をやり取りする二人は、認知症になる前よりも素直に気持ちを伝え合っているようです。

 イ・チャングン監督はもう一つ大事なことを描いています。認知症の人と世話をする人の関係はどうしても「世話をする人、される人」というように一方通行で見てしまいがちですが、この作品では、世話をしたりされたりの立場が時々入れ替わるため、どちらか一方が負い目を感じるのではなく自分も相手の役に立っているという満足感が二人の表情からうかがえるのです。

 もちろん、このようなやり取りは一時的なことかもしれませんが、わずかな期間であってもロマンチックな思いを共有することができた二人は幸せです。

 本作は今秋、東京(コリアンシネマウィーク)と大阪(大阪韓国映画祭)で上映されたもので、どちらも満席でした。ぜひとも日本公開してほしい作品です。

2020年1月