男と女 人生最良の日々(2019年・フランス)

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老いて病んで 恋を楽しむ

 この欄で名作『男と女』の53年後を描いた本作を紹介していいのかどうか迷いました。なぜなら主人公の男性は認知症を疑われています。「恋愛映画の金字塔」とまで言われる1966年作品のイメージを壊さないかと心配したからです。でもご安心ください。前作と新作を何度も見直す中で、老いの問題が切実さを増す今だからこそ、新しい恋愛映画が紹介されてもいいと考えました。クロード・ルルーシュ監督をはじめとする『男と女』のスタッフ・キャストが再結集した本作は、前作同様の傑作と言っていいでしょう。

 「ダバダバダ……」で始まるフランシス・レイ作曲のおなじみのテーマ曲。もうこれを聞くだけで前作の映像も交えた物語の世界にすーっと入っていくことができます。元レーシングドライバーのジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、息子が探してきた恵まれた環境の老人ホームで暮らしていますが、施設にはなじめず徐々に記憶を失い始めています。息子はそれを食い止めることができるのではと考え、父が長年捜し求めている女性アンヌ(アヌーク・エーメ)を見つけ出します。息子からジャン・ルイの様子を聞いたアンヌは老人ホームを訪れ、半世紀ぶりに再会を果たすのです。

 といってもジャン・ルイは彼女がかつての恋人アンヌだとは気づきません。彼女が髪に手をやれば「仕草が彼女にそっくりだ」と言うばかりです。「息子がいる」と自分から言ったのに「自分には息子はいない」といま話したことを否定します。どうやら認知症が進んでいるようです。

 このままで終われば、ネガティブな作品となってしまいますが、ジャン=ルイ・トランティニャンは老いてもチャーミングな笑みが魅力的な男を、そしてアヌーク・エーメは一段と美しさを磨いている女をそれぞれ演じて見せます。この2人が交わす会話はお洒落でそっくり書き留めたくなるほどです。役者がそろえば、老いた男女がこんなに素敵なカップルになれるのですね。

 ジャン・ルイは調子のいい時であれば、アンヌのかつての電話番号までそらんじて言い当てます。再会してからの会話でいかに愛し、愛されていたかに気づいた二人は、映画のサブタイトルのように、まさにこれから“人生最良の日々”を迎えることができるかもしれません。

 映画の中でジャン・ルイが詩をスラスラと朗読する場面もあります。認知症の人にそんなことができるのかという疑念を持たれる方もいるかもしれません。しかし本欄ではひとまずそれは脇に置き、老いて病を得ても恋愛を楽しむことは可能なのだという監督らの思いに敬意を表したい。映画の中で素晴らしい夕焼けに感動する恋人たちの様に。

 『男と女 人生最良の日々』は全国公開中。

 公式HP:http://otokotoonna.jp/

2019年3月