きみに読む物語(2004年・アメリカ)
時代を超え 変わらぬ愛
「こんな奇跡のような話が現実にあるとは思えない」「いや、あると信じることでつらい介護も頑張れるんだよ」。映画を見た人からはさまざまな感想や意見が寄せられそうです。
ニコラス・スパークスのベストセラー小説を映画化した本作は、若い恋人同士を演じるライアン・ゴスリングとレイチェル・マクアダムスの印象もフレッシュで全米でも大ヒットしました。
2004年の作品ですが、ご覧になった方もいるでしょう。ある療養施設で暮らす老婦人アリーは認知症が進み、子供や孫の顔も忘れています。そこへデュークという名の老いた男が毎日のように訪れては、大事そうに抱える一冊の本を少しずつ読んで聞かせてくれるのです。それは1940年代にまでさかのぼるアメリカ南部の町の令嬢アリーと貧しい青年ノアによる純愛の物語でした。
もうお気づきの方もいるかもしれませんね。このデュークという男性こそ老いたノアの今の姿なのです。若いころの大恋愛をアリーに話すことで彼女が失った記憶を取り戻してくれるのではと願っての行動でした。彼が語るのは、胸がドキドキするような熱いデートを繰り返すかと思えば、激しくぶつかり合いケンカしてしまう2人の青春時代の物語。その一方、記憶を手繰り寄せようとするかのように遠くを見つめるばかりの彼女と、今なお愛する女性に寄り添い奇跡を信じる夫の2人による現在の物語。同じ男女による二つの時代の物語が交錯するお話は大河ドラマを見ているようにスリリングで、先の展開を知りたくなります。
物語の中で、身分違いの恋と強く反対するアリーの母親には、自身に今なお消すことのできない若き日の恋愛の傷痕がありました。そんな自分を受け入れてくれた今の夫に感謝するアリーの母親は、アリーを諦めきれないノアが1年365日送ってきた手紙を娘には一切見せず、アリーがノアを諦め資産家の好青年との新しい恋愛に向き合い始めるお膳立てをすることになりました。こちらの恋愛は婚約に進展し、あとは結婚式を待つばかりに。この展開はダスティン・ホフマンの「卒業」と少し似ているかもしれません。
さて、アリーは記憶を取り戻すことができるのでしょうか。医師はノアに「認知症は回復しません」「希望を持ち過ぎないように」と冷静な対応を求めますが、ノアは「でも知ってるかね。神の力は科学の限界を超える」と譲りません。そんなある日、不思議なことが起きます。ノアが頼み込んで療養施設内に用意してもらった2人だけのディナーを囲む場面で、アリーの目に光が差したのです。「思い出したわ。それ私たちね」。喜んだノアがアリーをダンスに誘います。夢のようなひと時。でも幸せな時間は一瞬でした。目の前の「見知らぬ男」に驚いたアリーが大騒ぎし、施設のスタッフが駆けつけます。
愛する人とは一時も離れたくないからと家族の反対を押し切ってアリーと同じ療養施設内に住み込んだノアは、ある晩、一時的に心肺停止に陥ります。アリーの件のショックもあったのでしょう。まだ経過を慎重に見なければいけない状態ですが、彼は愛するアリーの部屋へ向かいます。アリーが目を覚ましました。「私たち一緒に死ねるかしら」と尋ねるアリーに「私たちの愛に不可能はない」と同意するノア。安堵したようにアリーが「おやすみ」。そして「また会おう」とノア。
1度目は若いころ突然に愛し愛される人を失い、2度目は老いた相手から自分の記憶を忘れられてしまったノア。2人の変わらぬ愛によってまた奇跡が起きようとしています。
『きみに読む物語』はDVDでレンタル・発売中。
2019年7月