「43年後のアイ・ラヴ・ユー」(2019年・アメリカ/スペイン/フランス)

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思い出の曲に触れ覚醒

 かつての恋人が認知症になったら、あなたはどうしますか? 何とか手を尽くして記憶を取り戻させたいと考える人がいるかもしれませんね。あるいは遠くから元恋人を見つめ、そっとお別れをする人や、恋愛は過去の話と割り切る人もいるでしょう。人それぞれの考え方や別れた時の事情によって対応は変わるかもしれません。本作の場合はこうでした。

 妻を亡くした後、老後を謳歌(おうか)する70歳の元演劇評論家クロードがこの物語の主人公です。ある日、昔の恋人で人気舞台女優だったリリィがアルツハイマー病で施設に入ったという新聞記事を見つけます。もう一度リリィに会いたいと願うクロードは、なんと認知症のフリをしてリリィと同じ施設に入居してしまいます。職業柄、演技に一家言持つクロードですが、自ら一世一代の名演技を思いつき実演するとは。それも愛のなせる業でしょうか。

 ところが念願の再会を果たしたはずのリリィの記憶からクロードは完全に消し去られていたのです。それでもクロードは諦めず毎日のように二人の思い出話を優しく語りかけます。ニューヨークの出会い、共に過ごしたパリでの日々をつづった手紙、一緒に聴いたガーシュインの曲、そしてリリィが好きだったユリの香り。視覚や聴覚、嗅覚など五感を刺激しようと試みますがリリィの記憶は戻りません。万策尽きたと思える展開ですが、そこで諦めるクロードではありませんでした。昔リリィが演じたシェイクスピア「冬物語」の観劇会が施設で行われることを知り、クロードは孫娘の手を借りある作戦を実行します。

 映画の邦題にもなっているようにクロードがリリィに発したセリフが彼女の胸に届く時が来たようです。かつての恋人に43年たっても「愛してる」と言うことができる男の物語。特に施設で演じられている「冬物語」を鑑賞していたリリィが突然立ち上がりセリフを朗々と語り始める場面、クロードと見つめ合うシーンは感動的です。同時にアルツハイマー病の人が思い出の音楽に触れて刺激を受け、一時的に覚醒することがあるといわれていることに納得です。

 アルツハイマー病の人には音楽療法が効果があるといわれています。今後の研究が待たれるところですが、認知症が必要以上に暗く描かれている作品に出合うと、逆にこのようなラブストーリーにホッとさせられます。「人は生きてきたように老いる」のなら、自分が認知症になったとき一瞬でも覚醒する曲があるのかと自問することにもなりました。私の場合はジョン・レノンの「イマジン」……でしょうか。

 カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したことのあるブルース・ダーンが、昔の恋人に43年も温め続けた恋心を伝えるクロードを熱演しています。

『43年後のアイ・ラヴ・ユー』は1月15日より公開。

公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/43love/

2020年12月